ポイント1:お店を変えれば音色も変わる

先ず三味線が本来の状態(棹の面や端など)であるってことが大前提ではありますが、誰が皮を張るかによって三味線の音色はまったく違ったものになります。なのでお店によって三味線の音色は全くの別物になってしまいます。

ずいぶんと昔の話なのですが、ある津軽三味線のお師匠さんはお弟子さんの為に新しい三味線を用意するときはいつもAという三味線屋さんに頼んでいたんだそうです。でも、Aという三味線屋さんの音色に不満があったお師匠さんは出来上がってきた三味線をお弟子さんに渡す前にBという職人さんに出して皮を張り直していたそうです。

このように三味線の皮張りは外見上は同じように見えても、実際に張った職人さんが違えば奏でる音色が全く違ったものになる楽器であります。

このBという職人さんはまだ津軽三味線が出始めの頃(義太夫の三味線からさらにサイズアップされた津軽三味線が出回り始めた頃)にすでに津軽の皮張りを専門にしていて(胴が大きくて皮も厚いため強く張れる職人が当時はほとんどいなかったらしい)多くの津軽三味線のお師匠さんから信頼が厚かったそうです。

因みに当店の先代はこのBという職人さんに師事して津軽三味線の皮張りを学びました。このBという職人さんに学んだ方は他にもいて、そのお店の皮の仕上がり具合(外見上)は当店と非常に似ていて我々も一瞬、見間違ったりしちゃいます(つまり外見からどこのお店で張っているか分かる場合もあるってことです※津軽に限りますが)。

ポイント2:手張りと機械張りで音色が違う

張る人(お店)が変われば音色も変わるのに加えて「皮を張る方法」でも音色が変わってきます。

「皮を張る方法」というのはつまり皮を張る道具は何を使うのかっていうことでありまして、それには「手張り」と「機械張り」の二通りがあります。

皮張り道具 手張りと機械張り
ちょっとわかりづらい画像ですが…

もともと「手張り」しかなかったのですが、誰でも簡単に張ることができるよう皮を張る機械(器具)が開発されました。この機械で張ったものが「機械張り」と呼ばれるものです。

インターネット上で検索すると当店の皮張りの価格と比べて随分と安いショップがあったりしますがどこも「機械張り」です(これらのショップをご利用された方の三味線を今まで見てきた限りでいえば手張りは一度も見たことないです!)。しかもこういうお店に限って堂々と「手張り」を謳っていたりするからなかなか「たちが悪い」ですよね…

確かに以前は「機械張り」でも熟練した職人さんがほんの数人いらっしゃってなかなかの「皮張り」を提供しておりました。「機械張り」とはいえ彼らの皮張りは全然張れない「手張り」の職人さんの仕事よりは全然良いもので、さらに「価格が安い(機械張りは手張りと比較して相当に手間が省けるので手間代分が安くなります)」ということと「納期が早い(下手すると一晩で仕上げたりしてくる職人さんもいました!」もあって競合していたときはなかなか大変なお相手だったりしました。

とはいえ、「機械張り」でどんなに頑張っても素晴らしい「手張り」の前には到底かないません。「機械張り」は道具の仕様上あまり繊細な皮張りはできませんのでどうしても大雑把になってしまいますし、当店の先代曰く「音色にふけさめがある」とのこと。

※「ふけさめ」とは津軽弁で良い時と悪い時の両方指しているのかな?ここでは音色のいいときと悪いときの差がありすぎるという意味合いで使っています。その日の気候天候、湿度や温度で三味線の音色は変わってしまいますので悪くなった時の状態が酷すぎるってことです。その点でも「手張り」は音色が安定しているようです。

しかも今の「機械張り」は特に酷いと思います。

インターネットメインでも本当に「手張り」のお店もあるのですが、いかんせん音色良く張れる職人さんはほんとうに少ない。「手張り」の意味がないくらい残念な音色が多く見受けられます。

手張りと機械張りのメリットデメリット

  • 皮というのは1枚1枚に異なる特徴や特性があるので、それに合わせて手張りだと微調整することができます。ですのでその皮が持つ可能性を最大限引き出すことができます。機械張りだと張り方が決まっているので、その中での可能性に留まってしまいます。
  • 機械張りは張る際に胴に非常に高い負荷がかかるので、いづれ胴がばらけやすくなってしまう。特にリプルは半端ない。なのでリプルを張る際は胴の組み直しなどの作業が必要になったりする場合がある。
  • 機械張りは手張りと違って細かい微調整ができないので大雑把な音色になってしまう(津軽三味線は逆にこれが良いと思う方もいらっしゃったりします)、なので繊細な音色は期待できません。
  • 機械張りは張る手間が非常に省ける(職人にとって)、時間も大幅に短縮できる。なので値段を抑えることができる。
  • 機械張りの大雑把な音色はマイクで拾いやすい。なのでエレキ三味線などにはいいかもしれない。

手張りと機械張りの見分け方

これは見慣れれば誰でもわかるのですが、一応、下に画像を掲載しておきました。皮を張ってから何年も経っていて黄ばみも目立つ状態ですが、かえって機械張りであることが分かりやすくなっています。しかもこれは津軽三味線だから余計にわかりやすいんですよね…

因みにリプルも含め合成皮はすべて「機械張り」です。

機械張り解説画像
↑機械張り
手張り解説画像
↑手張り※跡無しの場合
手張り跡が残る画像
↑手張り※跡有りの場合

このように手張りでも跡を消さない職人さんもいて、そうした場合の機械張りとの見分け方のポイントは「挟んだ跡の形状の違い」であったりとか「機械張りは挟んだ跡が均一に並んでる」とか、でしょうか。

ポイント3:皮の厚みで音色が変わる

また、音色の重要な要素として「皮の厚み」というものがあります。今は天然皮の状況がよろしくないので年々、皮が薄くなってきています。特に「機械張り」で薄めの皮を張ったときの音色の酷さといったら…

また繰り返しになりますが皮張りの話をする大いなる前提として「三味線の状態がしっかりしている」というのがありますのでお忘れなく(どんなに凄い皮張りであっても端が高ければボンボンした締まりのない音色になってしまいますので)。

皮の張り具合チェックの仕方

右が当店の皮張り

因みに上記動画は一応アップしてみましたが、違いがとってもわかりづらい…

マイクでの集音には限界があって、特に皮への打撃音(指で弾く音や撥を当てたときの音)は鋭すぎてうまく拾えない。

左はボンボンしている感じで実際の音色もボンボンしているわけです。

右はうちの張りで聞き取りづらいのですが、指で弾いたときの音色が左に較べて鋭くて、実際の音色では非常にバランスのとれた心地よい音色がするわけです。

逆に張りが緩いほうがマイクだとうまく音が拾えて良く聞こえてしまうというジレンマに陥ってしまうんですがしょうがない…

おまけ(胴皮が破けてしまったときの保管方法)

胴皮破れのときの保管方法画像
↑胴皮を剥がさず枠ギリギリまで破けきってください

当店でも以前は使っておりましたが…「三味線が破れてしまってそのままにしておくと胴が壊れてしまう」みたいなことを言って三味線の皮張りの仕事を承るってやつですね。

まぁ、確かにそうなんです。

胴皮を破けてそのままにしておくと胴がばらけてしまって再度、皮張りをする際は「胴の組み直し」って作業が必要になってしまい、皮張り代金以外にお金がかかってしまうってことになります。

なんですけど、今は皮張りの価格も上がってしまいましたし、弾かないけどそのままにしておくと…ってことで皮張りをしようという方が結構いらっしゃるので今はちゃんと説明しております。

上記の画像のように皮は剥がさずに胴の4つの隅までハサミなどを使って皮を破けきって、くり抜くような感じにしてください。この状態にして保管しておけば胴が歪んだりしてバラけることを防ぐことができます。

そうすれば、いざ使いたいときは両面の張替代だけで済みますので〜